『ワイルドハンズ・ティーチャーズ』

内田春菊
主婦と生活社 2006/7/10発行
内田春菊が手芸家、デザイナー、料理研究家など7人の作り手達と交わすモノづくり談義を、漫画をはじめ、写真、対談、作り方メモなどを配してまとめた、ムック風の本です。対談部分の文字は老眼にはつらい極小サイズなのですが、手作りの達人達の考え方がストレートに伝わってきて、おもしろく読みました。
内田春菊は漫画家、随筆家としてだけでなく、奔放かつ壮絶な生き方でも名を知られた人です。漫画や小説を書くだけでなく俳優や歌手としても忙しく活動している人ですから、縫い物や料理などに手をかける暇などなくて、きっと人任せにしているのだろうと思っていましたが、実は編み物や料理が大好きと言います。それを「家庭的」と評する人は殺してやりたいほど嫌いなのだそうで、彼女が何かを作るのは、とにかくそれが楽しいからだとのこと。
対談の相手も、手作りを楽しくてしょうがないと思っている人たちです。確かに手作りは楽しいもののようだと、奇想天外なステンレス製のウェディングドレスを見て思いました。
数ページめくるたびに出て来る大写しの内田春菊さんの肖像写真。達人たちがプレゼントするバッグやドレス。内田春菊さんは、時代の先端をいくハイセンスな出版関係者や芸能人との親交がいかに深いか、それとなく語られます。つまり、この本のタイトルは「内田春菊 ワイルドハンズ・ティーチャー」というタイトルでも良かったかも。
この本の発行は20年近く前です。前書きの「いまどき手作りに、良妻賢母アピール、陰気くささ、しみったれ感などを感じる人の方が間違っている」とあります。当時のことはよく覚えていませんが、その手の「間違っている人」が多かったのかと、妙なところで考えさせられました。
『ファッション・クライミング―ビル・カニンガムのファッション哲学、そのすべて』

ビル・カニンガム
渡辺佐智枝 訳
朝日出版社 2021/7/30発行
写真家ビル・カニンガムがいかにしてファッション界のはしごを登り詰めていったのかを綴る自伝です。
彼は「男の子がおしゃれにうつつを抜かすなんて家の恥」と考えるボストン郊外の中流家庭で育ちますが、ファッション業界で身を立てるという夢絶ち難く、ニューヨークに出て奇抜な帽子のデザイナーとして名を上げます。その後、帽子の時代は終わったと、ファッションジャーナリストに転身、写真家として大成します。
この書は死後発見された原稿をまとめたそうで、全体を通して、ファッションに対する熱い思いと真摯に取り組む姿勢が伝わってきますが、同時に浮かび上がるのは、店舗の販売員から出発して「ファッションの天才」と称されるまでになる過程で見聞きした社交界やファッション業界の実態です。
マリン婆さんは若い頃から「ダサい」「センスない」「似合ってない」と言われ続けてふてくされ、「服なんて暑さ寒さをしのげばいいじゃん」と居直ってきました。この年齢になって今更と思いますが、最近、「おしゃれ」への憧れを感じるようになり、この書を手に取ったのでした。
本書から垣間見えたのはファッション産業の現状です。あらためて、ファッションとは何か、ファッション業界は今後どこに向かっていくのか、そちらの方に興味をかきたてられました。この本の意図からは離れてしまったのかも知れませんが。
『現代手芸考 ものづくりの意味を問い直す』

上羽陽子・山崎明子著
フィルムアート社 2020/9/25発行
本格的な手芸論はこれまでなぜ書かれなかったのか。その答えも含めて、手芸と呼ばれてきたものを、歴史、文化、芸術、ファッションなど様々な側面から探っています。ものづくりとは何かをあらためて考えさせられました。
「つくる」「教える」「仕分ける」「稼ぐ」「飾る」「つながる」の6つのアプローチはどれも具体的で説得力があり、読むごとに目からウロコがボロボロ落ちる気がしました。
小学校時代は家庭科が大嫌いでした。専任の先生がいつも怒ってばかりで密かに「鬼婆」と呼ばれるような人だったせいもありますが、「女の子は料理裁縫ができなきゃダメ」という彼女の押し付けについていけない気がしていたからです。
その頃、母は洋裁や編み物の教室に通い、子供たちのセーターや服をせっせと作っていました。つまり母は高度成長期の核家族の、ごく平凡な母親像を地で行く人であり、子供である私はそれを誇らしくも思っていたのでした。
結婚し、子供を持つようになると、子供服の価格の高さに腹を立て、見様見真似で作るようになりました。我が「ものづくり」はケチから出発したに過ぎず、自分はあくまで手芸的なものは嫌いなのだと、これまで思い込んでいたのですが、もしかすると、そうではなかったのかも知れない。
子供の頃から抱いてきた「裁縫」「手芸」「家庭」に対する疑問や思い込みが音を立てて崩れ落ち、隠されていた中身が見えてくる…まさに快感、こんな本が現れるのを待っていました。
『ベリーダンサーのための手作りBOOK』

ベリーダンサーのための手作りBOOK
サイズ直しからコスチューム制作まで
イカロス出版
子供の頃から音楽と体育が大の苦手です。今でも、見るのは好きですが、自分が踊る気にはなれません。「健康によい」といくら勧められても、盆踊りもフラも、ましてベリーダンスなんて関係ないと思っていました。
この本を手にしたのは「手作りBOOK」という大きな文字が目に入ったからです。開いてみたら、ダンサーのための衣装作りのヒントが写真入りでたくさん載っていました。
ダンサーはとことん工夫して納得のいく衣装を作り上げていきます。「表現する」という根本のところで、コスチュームもダンスの重要なパートを担っているのだと知りました。
ダンスに縁のない人間が見ても、何度見ても飽きません。楽しい本にめぐりあいました。
ミシンと女のしたたかなバトル ー 『ミシンと日本の近代』

ミシンと日本の近代
消費者の創出
アンドルー・ゴードン
大島かおり訳
みすず書房
服作りに欠かせない裁縫道具、ミシン。これを日本に初めて持ち込んだのはジョン万次郎だそうですが、以来、ミシンは「耐久消費財」として月賦購入システムや歩合給セールスマン制度を生みながらじわじわと日本中の家庭に入り込んでいきました。
ミシンはおしゃれ願望を満たすための、また家族の服作りを通して良妻賢母を実践するための実用的道具として、小遣いを稼ぎ出す地味で安全な家計手段として、また洋装店主やデザイナーとしての立身出世の夢を運ぶ魔法の杖として、生き延びてきました。
明治から戦前戦後を通して、ミシンという消費財を日本の女性がどのように受け入れ、利用し、そして離れていったか、この本は鮮やかに再現して見せてくれます。
特に戦後の、ミシンや洋裁をとりまく様々なエピソードはマリン婆さんの子供時代の思い出が蘇ってきて、「そう、そう、そうだったなあ」と感慨しきり。ミシン普及の歴史を通して、庶民のありよう、女性のありようがどう変わってきたのか、まるで映像を見るように伝わってきました。
マリン婆さんは「戦争を知らない世代」なので、モンペを、国に押し付けられた無粋な国防服だと思っていたのですが、国が推奨したのはキモノを改良した2部式キモノであり、活動しやすいズボン形式のモンペを選んだのはむしろ女性たちの方だったという説は意外でした。
自分で物を作ったり直したりすると世界が変わって見えてくる ー 『Made by Hand』

Made by Hand
ポンコツDIYで自分を取り戻す
マーク・フラウエンフェルダー
金井哲夫訳
オライリージャパン 2011年6月25日発行
ITバブル崩壊で暇になったライターが「現代社会の馬鹿げたカオス」から抜け出して素朴な生き方をしようと家族を引き連れて南太平洋の離れ小島ラロトンガ行きを決行しますが、島の生活はあっけなく挫折してしまいます。
求めていたものが見つからなかったからではなく、そもそも何を求めているのかわかっていなかったからだと気付いた彼は島での失敗をバネに、自分の手と頭を使う暮らしを始めようと、まずは芝生を殺して菜園を作るのですが、何をやっても失敗の連続。
モノづくりの先輩達から「失敗を恐れるな」と励まされた彼は鶏小屋、木のさじ、紅茶キノコ、コーヒーマシン、ギターなどの製作から、養鶏、養蜂、わが子の算数教育などへとDIY活動の幅を広げていきます。
その経験をまとめたのがこの本です。自家製品は不完全で劣っていると一般には思われています。手造りやリメイクは手間もカネもかかるうえに出来栄えもパッとしないのだから、買った方が結局お得。そうした思い込みから自分を解放していく、これは成長の記録のようです。
「日頃使ったり消費したりする物を、作ったり直したり改良したりする間に活動的になる自分の心地よさを一度味わった私は、もう、自分が作った物の多少の不具合やゆがみや不完全さを恥じることはない」というくだりに、不器用で失敗作ばかり作っているマリン婆さんは大いに勇気づけられました。
『もう一度おしゃれにリファッション なんてすてきな私ブランド』

「もう一度おしゃれにリファッション なんてすてきな私ブランド」
美輪倫子著
発行所 窓社
図書館をぶらついていて出会ったこの本。奥付を見たら1999年1月発行とあります。1999年といえばバブル崩壊後、人も世も元気のない状態が続いていた頃でしょうか。
ユニクロが一躍躍り出たのもこの時代だったかと思います。お金をかけずにファッションを楽しむという意識が広がった時代。美輪倫子さんは、衣服のリフォームを通して、おしゃれを考えようと、この本で提唱しています。さまざまな古着を再生し、「私ブランド」として着るのを楽しんでいる様子が目に浮かびます。
正直言って、どれもまあ平凡と言えば平凡なアイデアのような気もしますが、自信をもって「自分ファッション」を打ち立てているという点に共感を覚えました。
『はじめてのリメイク』

「はじめてのリメイク」
縫って染めて出かけよう
自然食通信編集部・編
自然食通信社 2003年12月1日発行
古着や古布を、小難しい洋裁の技術やきまりなど気にせず、アイデアのひらめくままに切ったりつなげたりして服を作るとこうなるというサンプル集。堂々とそれを着て出かけた証拠写真も掲載。
リメイク本はさまざまなものが多数出版されています。本屋で見かけて衝動買いしたものも数知れません。実物大型紙も付いて、親切な作り方の説明もあって。ときおり引っ張り出してはこうでもない、ああでもないと眺めまわして。それでいて、残念ながら、それを手本に実際に作ってみたという経験はあまりありません。
なぜか。着物リメイク本に登場する古着は入手困難なレアものが多くて、あまり参考にはなりません。手元にある、あまりおしゃれでない古着を、単に古着の有効活用ではなく、着られるおしゃれ着にリメイクするには、かなりの知識と技術と想像力と応用力が、実は必要なのです。
詳しい作り方よりもまず頭を柔らかくする方法を知りたいと思って手にしたのがこの本でした。正直言って、「こんなの着て外出できるか、わたし」と思うのですが、どうせ眺めるだけのリメイク教本ならば、これは十分役に立ちます。
